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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)7078号 判決

主文

一  被告株式会社オカモトコーポレーションは、別紙被告標章目録(一)及び(二)記載の標章を使用したシャツを販売し、又は販売のために展示してはならない。

二  被告らは連帯して、原告に対し、金二四〇〇万円及びこれに対する被告株式会社オカモトコーポレーションは平成五年八月一日から、被告岡本正は同月二日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は被告らの負担とする。

五  この判決の第一、第二項は、仮に執行することができる。

理由

【事実及び理由】

第一  請求の趣旨

一  主文第一項と同旨

二  被告株式会社オカモトコーポレーションは、その所有、占有する別紙被告標章目録(一)及び(二)記載の標章を使用したシャツを廃棄せよ。

三  主文第二項と同旨

四  仮執行の宣言

第二  事案の概要

一  原告の商標権

原告は、昭和五五年四月二一日、次の商標権を前商標権者であるシンガポールのリー・セン・ミン・カンパニー・センデイリアンバーハッド(以下「シンガポールのリー社」という。)から移転登録(原因・昭和五四年七月一二日譲渡)を受けて有している(争いがない。以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件登録商標」という。)。

登録番号 第五七一六一二号

出願日 昭和三四年四月二七日(商願昭三四-一二九九三)

登録日 昭和三六年五月一日

存続期間の更新登録 昭和五六年七月三一日、平成三年七月三〇日

商品の区分 旧第三六類

指定商品 洋服、オーバーコート、レインコート、股引、脚絆、帽子、襯衣、ズボン下、手袋、靴下、カラ、カフス、ネクタイ、襟巻、ガーター、腕止、巻ゲートル、手巾、装身用ピン

登録商標 別紙登録商標目録記載のとおり

二  被告株式会社オカモトコーポレーションの行為

被告株式会社オカモトコーポレーション(以下「被告会社」という。)は、平成四年、別紙被告標章目録(一)記載の標章(以下「被告標章1」という。)を織ネームに使用したシャツ、及び同目録(二)記載の標章(以下「被告標章2」という。)を包装袋に使用したシャツ(以下、これらのシャツを一括して「被告商品」という。)を販売した(争いがない。)。

三  請求の概要

原告は、被告商品は本件登録商標の指定商品中の襯衣、シャツと同一であり、被告標章1、2は本件登録商標と同一又は類似するものであるから、被告会社が被告商品を販売する行為は本件商標権を侵害するものであると主張して、被告会社に対し、<1>商標法三六条一項に基づき被告商品の販売及び販売のための展示の差止めを、<2>同条二項に基づき被告会社が所有、占有する被告商品の廃棄を、<3>商標法三八条、民法七〇九条に基づき、被告会社の行為により原告が受けた損害の賠償として内金二四〇〇万円(及び訴状送達の日の翌日である平成五年八月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金)の支払を請求するとともに、被告岡本正(以下「被告岡本」という。)に対しても、商標法三八条、民法七〇九条、七一九条一項、商法二六六条の三第一項に基づき、前同様の損害の賠償として二四〇〇万円(及び訴状送達の日の翌日である平成五年八月二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金)の支払を請求。

四  争点

1 被告標章1、2は本件登録商標と同一又は類似するものであるか。

2 被告会社の行為は、真正商品の並行輸入として実質的違法性を欠くか。

3 被告会社は現在被告商品を販売し、又は販売のために展示しているか。将来同様の行為をするおそれがあるか。被告会社は現在被告商品を所有、占有しているか。

4 被告岡本は被告会社とともに不法行為責任を負うか。被告岡本には代表取締役としての職務を行うについて悪意、重過失があったか。

5 被告らが損害賠償義務を負う場合、原告に賠償すべき損害の額。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(被告標章1、2は本件登録商標と同一又は類似するものであるか)

【原告の主張】

1  本件登録商標の要部は、筆記体のCrocodileの文字部分と図形にある。

2  被告標章1は、本件登録商標と同一である。被告標章1中の「PERSONALLY DESIGNED BY CROCODILE ORIGINAL」の文字部分は、その意味や位置からして商標部分ではないからである。

仮に、右の部分が商標を構成するとしても、この部分は識別力がなく、被告標章1の要部はこれ以外の筆記体のCrocodileの文字部分と図形にある。そして、被告標章1は、この要部の構成において本件登録商標と酷似するから、本件登録商標と類似するものである。

3  被告標章2は、本件登録商標から識別性の低い四角枠を取り除いただけのものであって、その要部は筆記体のCrocodileの文字部分と図形にある。したがって、被告標章2は、本件登録商標と要部が同一であり、類似するものである。

【被告らの主張】

原告の主張は争う。

二 争点2(被告会社の行為は、真正商品の並行輸入として実質的違法性を欠くか)

【被告らの主張】

被告会社が被告商品を輸入して販売した行為は、いわゆる真正商品の並行輸入として実質的違法性を欠くから、原告の有する本件商標権の侵害となるものではない。

1  本件登録商標でもある「クロコダイル」商標(長方形の枠の中に左端の下部から右斜め上方に向かって鰐を意味する英語Crocodileを筆記体で書き、右文字とほぼ平行に、頭部を左にし右斜め上に向かって尾をはね、少し口を開いた鰐の図形を描いたもの)は、長男陳少輝(Tan Siew Huy)、二男陳俊(Tan Shun)、三男陳賢進(Tan Hian Tsin)の三兄弟が中心となり、同人ら及び同人らが経営する事業体が世界各国の商標権者となって、古くから使用してきたものであって、遅くとも本件登録商標の原告への譲渡原因が発生した昭和五四年(一九七九年)七月一二日には、世界的に著名な商標として広く取引関係者や消費者に認識されていたものである。

(一)  すなわち、「クロコダイル」商標は、香港において古くから使用されてきたものであって、昭和二六年(一九五一年)には香港において指定商品をシャツとして商標登録を受け(当初の商標権者はリー・ワイ・ミン・ファクトリー〔利華民行〕)、昭和三一年(一九五六年)には陳三兄弟がその商標権者となり、昭和四六年(一九七一年)には同人らが経営する香港のクロコダイル・ガーメンツ・リミテッド社(以下「香港のクロコダイル社」という。)がその商標権者となって、管理してきた。

そして、香港のクロコダイル社は、「クロコダイル」商標につき、香港だけでなく英国、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、シンガポール、インドネシア、ビルマ、タイにおいても商標登録を受け、また、同じく陳三兄弟が経営するシンガポールのリー社も、「クロコダイル」商標につき韓国、台湾、インド、ブルネイにおいて商標登録を受けて、メーカーである香港のクロコダイル社(陳俊が社長に、陳少輝が副社長に就任。)が、シンガポールのリー社(陳賢進が社長に就任)。やその他の関連会社等をその販売部門として、「クロコダイル」商標を付したワイシャツ、ニットシャツ、ネクタイ、スーツ等の衣料品を、日本、欧州、中近東及び東南アジア諸国などに手広く販売してきた。

日本については、シンガポールのリー社が昭和三六年(一九六一年)五月一日に本件登録商標について商標登録を受け、日本における販売代理店である原告を通じて「クロコダイル」商標を付したワイシャツ、スポーツシャツ類を広く販売してきたのである。

(二)  陳三兄弟、その経営する会社及び関連会社が、右のように各国において、商標登録出願をし、長年にわたり「クロコダイル」商標を付した商品を製造販売し、「クロコダイル」商標のイメージアップの努力をしたことによって、「クロコダイル」商標は、各国において「クロコ」又は「クロコダイル」のシャツとして愛用されるに至り、昭和四六年(一九七一年)までには、少なくともアジア、中近東各国に関する限り、確固不動の地位を築き上げ、世界的にも著名な商標として認知されるに至った。

陳三兄弟を中心とする一群の会社が相互に密接な経済的関係を有するクロコダイルグループというべきグループを形成していることは、陳賢進がシンガポール所在のシンガポール・クロコダイル・ガーメンツ有限責任会社(以下「シンガポールのクロコダイル・ガーメンツ社」という。)の支配人、株主であり、シンガポール所在のクロコダイル・インターナショナル有限責任会社(以下「シンガポールのクロコダイル・インターナショナル社」という。)の取締役、株主であり、マレーシアのクロコダイル・ガーメンツ社(以下「マレーシアのクロコダイル社」という。)の株主であること、右三社や香港のクロコダイル社の関係において、シンガポールのクロコダイル・ガーメンツ社とシンガポールのクロコダイル・インターナショナル社は同一場所にあって、前者は衣料品の販売会社、後者は持株会社であること、シンガポールのクロコダイル・ガーメンツ社は、マレーシアのクロコダイル社の株式を保有し、香港のクロコダイル社の担保が設定されていることなどから十分に窺うことができる(乙第三ないし第五号証、第六、第七号証の各1ないし5、第八号証の1・2)。クロコダイルグループの各社が「クロコダイル」商標の維持・管理をしていることは、陳賢進がシンガポールのリー社と同一の住所地において、ユー・シン・ファクトリーなる屋号を用いてマラヤとサバで、シンガポールのクロコダイル・ガーメンツ社がサラワクで、香港のクロコダイル社及びシンガポールのリー社が前記(一)掲記の各国で「クロコダイル」商標について商標登録を受けていることからも明らかである。

2  原告は、右のような背景のもとで、シンガポールのリー社から、昭和三六年(一九六一年)日本国内における「クロコダイル」商品の一手販売権を与えられ、昭和五一年(一九七六年)には本件登録商標の専用使用権の設定を受けて、同社の日本における「クロコダイル」商品の販売代理店として、本件登録商標を付したワイシャツ、スポーツシャツ類の輸入販売をしてきた者であるにすぎない。

原告がこれまで販売してきた「クロコダイル」商品は、シンガポールのリー社らクロコダイルグループが各国で販売する「クロコダイル」商品と品質、形態等について差異がないか、差異があっても世界的に著名な「クロコダイル」商標を出所として表示する商品として許容された範囲での差異しかない。このことは、原告がシンガポールのリー社から本件商標権の移転登録を受けた昭和五五年(一九八〇年)四月二一日以降も同様である。

また、被告会社が輸入販売をした被告商品はいずれも、クロコダイルグループの一員であるマレーシアのクロコダイル社が販売した商品であるので、当然、被告商品に付された「クロコダイル」商標は、前記のシンガポールのリー社らクロコダイルグループが各国で維持、管理、発展させてきた最もオーソドックスな商標(前記1の特徴を有する商標。昭和二六年〔一九五一年〕に香港で商標登録を受けたもの)と同一又は類似するもので、その商品の品質・形状も同一又は許容範囲内のものであるから、真正商品ということができる。マレーシアのクロコダイル社が「クロコダイル」商標の使用について許諾を得ていることは、同社の株主に同国の商標権者である陳賢進が含まれていることから窺うことができる。

3(一)  ところで、商標法の趣旨は、商標の出所識別機能、品質保証機能を保護することを通じて、当該商標の使用により築き上げられた商標権者のグッドウイルを保護するとともに、流通秩序を維持し、需要者をして、商品の出所の同一性を識別し、購買に当たって選択を誤ることなく自己の欲する一定の品質の商品を入手することを可能ならしめ、需要者の利益を保護しようとするところにある。つまり、商標保護の直接の対象は商標の機能であり、これを保護することによって究極的には商標権者の利益のみならず公共の利益をも併せて保護しようとするもので、商標権は、この点において他の工業所有権と比べて極めて社会的、公益的性格の強い権利であって、登録主義の建前の下で基本的には私有財産の性質を有するとしても、その保護範囲は必然的に社会的な制約を受けることを免れないから、商標権属地主義の妥当する範囲も、商標保護の精神に照らして商標の機能に対する侵害の有無を重視して合理的に決せられるべきものであることはいうまでもない。

そして、同一商標につき同一人あるいは法律的又は経済的な関係を有する者らが、内国及び外国において商標権を有している場合で、殊にその商標が著名な商標である場合には、当該著名商標によって識別される商品の出所は、内国の生産源、販売源ではなく、国際的な観点から窺える生産源、販売源である。換言すれば、世界的に著名な商標については、各国の需要者は、その商標が内国の登録商標であるか外国の登録商標であるかを問題とせず、国際的な観点から窺える生産源、販売源が誰であるかを重視して当該商標の付された商品を購入するのが通常であるから、内国商標権者や内国専用使用権者の業務上の信用はいささかも害されない。

したがって、たとえ第三者が内国権利者の許諾を得ずに当該著名商標の付された商品を海外から輸入販売しても、その商品が国際的な観点からの生産源によって製造されたものであるか、国際的な観点からの販売源の品質管理の下に製造されたものである場合には、当該商標の出所識別機能、品質保証機能を害さず、グッドウイルを損なうこともないから、いわゆる真正商品の並行輸入として、実質的な観点から商標権を侵害しないというべきである。

(二)  本件登録商標を含む「クロコダイル」商標は、陳三兄弟を中心とするクロコダイルグループの努力によって、昭和四六年(一九七一年)には世界的に著名な商標となり、少なくともアジア、中近東各国では確固不動の地位を築き上げていたため、日本国内においても、取引業者や需要者の間では、古くからある海外の著名ブランドとして認識され、それによって識別される商品の出所もクロコダイルグループであると考えられており、国内販売代理店にすぎなかった原告がその生産源、販売源であるとは考えられていなかったことが明らかであるから、その後における真正商品の輸入販売は、たとえ内国権利者の許諾を得ずに行われたとしても、商標権侵害を構成しないはずである。

(三)  以上のことは、昭和五五年(一九八〇年)四月二一日(本件商標権の原告への移転登録がされた日)以降今日においても同様である。

なぜなら、本件登録商標を含む「クロコダイル」商標がクロコダイルグループの「クロコダイル」として形成してきた確固たるグッドウイルは、本件商標権の原告への移転登録がされた後においても変化があった(原告が新たに独自のグッドウイルを形成した)とはいえず、原告はクロコダイルグループが築き上げたグッドウイルを継承したにすぎないからである。

このことは、クロコダイルグループの「クロコダイル」商標のグッドウイルの形成には、国際的な観点からみて香港における商標登録時の昭和二六年(一九五一年)から起算しても今日までの約四一年間に、シンガポールのリー社による本件登録商標の商標登録時の昭和三六年(一九六一年)から起算しても移転登録時までに約一九年間を費やしているのに対し、原告が内国商標権者として本件商標権を保有している期間は約一三年間であるにすぎないこと、原告が本件登録商標につき原告商品に付した商標として広く宣伝広告、販売活動を始めたのは、右移転登録後のことであって、それまでは原告はシンガポールのリー社の販売代理店として「クロコダイル」商品を販売している立場にすぎなかったこと(原告が書証として提出する宣伝広告資料は、最も古いものでも昭和五二年のものであり、ほとんどは近年のものである。)、移転登録の前後を通じて、原告による「クロコダイル」商品の販売方法、商品の形状等にはほとんど変化がないこと、したがって、今日においても、取引関係者や需要者の間で「クロコダイル」商標はクロコダイルグループの著名商標であってその出所源は海外と捉えられていること、原告は、本件商標権の移転登録後も香港のクロコダイル社と合弁会社を設立するなどして密接な関係を保っていることなどからも明らかである。

したがって、平成四年に被告会社が被告商品を輸入販売した行為も、被告商品がクロコダイルグループの真正商品である以上、本件登録商標が有するグッドウイルをいささかも損なっておらず、実質的には違法なものとはいえない。

【原告の主張】

被告商品は、並行輸入の許される真正商品には当たらないから、被告会社が被告商品を輸入販売した行為につき違法性が阻却されることはない。

1  【被告らの主張】1のうち、陳三兄弟及びその経営する事業体が一体としての事業体を形成しているとするかのような主張は否認し、その余は不知。

(一)  同1(一)のうち、香港のクロコダイル社が香港における「クロコダイル」商標の商標権者であること、シンガポールのリー社が韓国、台湾、インド、ブルネイにおける「クロコダイル」商標の商標権者であることは認めるが、香港のクロコダイル社及びシンガポールのリー社を陳三兄弟が経営していたこと、香港のクロコダイル社がシンガポールにおいて「クロコダイル」商標の商標登録を受けていたこと、メーカーである香港のクロコダイル社が、シンガポールのリー社やその他の関連会社等をその販売部門として、「クロコダイル」商標を付したワイシャツ、ニットシャツ、ネクタイ、スーツ等の衣料品を日本、欧州、中近東及び東南アジア諸国などに手広く販売してきたこと、原告がシンガポールのリー社の日本における販売代理店であったことは否認する。

すなわち、香港のクロコダイル社は、陳俊が経営していたのであって、陳三兄弟が経営していたものではない。しかも、現在の香港のクロコダイル社の経営権は陳俊の手を離れ、陳三兄弟とは全く関係のないライサンガーメンツ(インターナショナル)リミテッド(以下「ライサン社」という。)に移っている。シンガポールのリー社は陳賢進が経営しているものであり、陳三兄弟で経営しているものではない。

また、シンガポールにおける「クロコダイル」商標の商標権者はシンガポールのリー社であって、香港のクロコダイル社ではない。

香港のクロコダイル社とシンガポールのリー社とは、メーカーと販売会社という関係にはなく、それぞれ独自に工場を有し、それぞれの商圏で製造、販売を展開している。

(二)  同1(二)のうち、陳三兄弟を中心とする一群の会社が相互に密接な経済的関係を有するクロコダイルグループというべきグループを形成していることは否認する。その余の事実は不知。

前記のとおり、陳俊が経営していた香港のクロコダイル社と陳賢進が経営しているシンガポールのリー社とは、それぞれ独自に展開されてきた会社であり、しかも、現在の香港のクロコダイル社の経営権は陳俊の手を離れ、陳三兄弟とは全く関係のないライサン社に移っている。

2  同2のうち、原告が昭和五一年にシンガポールのリー社から本件登録商標の専用使用権の設定を受けたことは認めるが(昭和五〇年一二月二日付契約に基づき、昭和五二年二月一四日に専用使用権の設定登録を受けたものである。)、その余は否認する。

原告が昭和三六年シンガポールのリー社から日本国内における「クロコダイル」商品の一手販売権を与えられた事実はない。原告は、シンガポールのリー社から本件登録商標について許諾を受ける以前は、本件登録商標を付したトリコット(合繊一〇〇パーセントの経編の編地)のドレスシャツ(ワイシャツ)を輸入して販売していたにすぎない(当時は、胸の位置にいわゆるワンポイントのマークを付したものではなく、襟のところに「クロコダイル」商標の織ネームが入ったトリコットワイシャツであった。)。

原告は、シンガポールのリー社から許諾を受けて、日本で「クロコダイル」商標のワンポイントの入ったスポーツウェアに新たに商品のラインを展開した。そして、原告は、本件登録商標について、専用使用権の設定を受けた後、テレビ、雑誌、新聞、看板等により大規模な広告活動を行いながら、本件登録商標を付した商品を製造、販売してきたものである。

被告らのいうようなクロコダイルグループなるものは存在しない。当然のことながら、クロコダイルグループによる品質管理などは存在せず、クロコダイルグループに共通する「クロコダイル」商品の品質、形態なるものも存在しない。原告の本件登録商標を付した商品とシンガポールのリー社や香港のクロコダイル社の各「クロコダイル」商標を付した商品とでは、素材、プリント、縫製、デザインとも異なっている。

3(一)  同3(一)の真正商品の並行輸入に関する法律論は、一般論としては争わないが、本件は右法律論が適用される事案ではない。

(二)  同3(二)の事実は否認する。

(三)  同3(三)の事実は否認する。

原告は、本件登録商標について、シンガポールのリー社から昭和五一年に専用使用権の設定を受け、昭和五四年に本件商標権の譲渡を受けた後、長期にわたり独自に多額の費用をかけて宣伝活動を行い、日本において本件登録商標を有名にしてきたのであり(この点、「ラコステ」商標のようにライセンスの当初から著名であったものとは異なる。)、日本国内におけるグッドウイルは原告独自のものである。日本国内において現在「クロコダイル」商標が有名なのは、原告が有名にしたことによるものであり(被告らは、現在本件登録商標が日本国内で有名であるが故に、当初から現在のように有名であったと誤認しているものである。)、原告とシンガポールのリー社、香港のクロコダイル社とは独立別個であり、原告は独自に、商標管理、商品デザインの管理、商品の製造の管理を行っている。

また、原告が香港のクロコダイル社(但し、前記のとおり陳三兄弟とは全く関係のないライサン社が経営している。)と香港に合弁会社を設立した事実はあるが、右合弁会社は中国の縫製会社に間接的に出資する目的で設立されたものであり、右中国の縫製会社はジーンズの製造を行ったものの、「クロコダイル」商標とは全く関係がない。

三 争点3(被告会社は現在被告商品を販売し、又は販売のために展示しているか。将来同様の行為をするおそれがあるか。被告会社は現在被告商品を所有、占有しているか)

【原告の主張】

被告会社は、本件訴訟において、被告商品の販売行為は真正商品の並行輸入であるとして本件商標権侵害の成立を争っており、損害に関する認否や主張においてもその場限りの弁明を繰り返していること、原告からの内容証明や呼出しを受けても、被告商品を処分せず、本件訴訟提起後の平成五年八月二六日になってようやくこれらの返品手続を行っていることから、反省しているとは認められず、少なくとも将来再び被告商品を販売し又は販売のために展示するおそれがあるというべきである。

【被告らの主張】

被告会社は、現在においてはもはや被告商品を販売し又は販売のために展示するおそれはなく、被告商品を所有、占有してもいないから、差止請求、廃棄請求は理由がない。

1  被告会社は、被告商品を輸入するに際し、マレーシアのクロコダイル社から、原告は日本でのライセンシーであって、もし何かあれば同社が解決するから心配しなくてよい旨伝えられたので、安心して輸入に踏み切ったのである。したがって、原告が日本国内での商標権者である旨を被告会社が知ったのは、原告から説明を受けたときであって、もし事前に了知していれば輸入をやめていた。

被告会社は、原告から警告を受けて大いに驚き、マレーシアのクロコダイル社に苦情を申し入れたが、同社の担当者は手のひらを返したように会おうともしないのであって、つまり、被告会社は同社に騙されたのである。

2  被告会社は、原告から警告を受けた後、回収可能な被告商品はできる限り回収し、すべて輸入元に返品した。したがって、被告会社の手元には被告商品は一枚も存在しない。

3  このように、被告会社の被告商品の輸入販売行為は、原告が本件登録商標の商標権者であることを了知した上でなした意図的なものではなく、被告会社は、今後も無用なトラブルを避ける意味からも一切被告商品を輸入等する意思はない。

四 争点4(被告岡本は被告会社とともに不法行為責任を負うか。被告岡本には代表取締役としての職務を行うについて悪意、重過失があったか)

【原告の主張】

被告岡本は、被告会社の代表取締役として業務執行を統括し、本件商標権の侵害行為をしたものであるから、商標法三八条、民法七〇九条、七一九条一項、商法二六六条の三第一項により、原告に対し損害を賠償する義務を負うものである。

【被告岡本の主張】

被告岡本には悪意や重過失がなかったから、同被告に対する損害賠償請求は棄却されるべきである。

1  被告岡本は、これまで商標権侵害で訴えられたことはなく、商標権についてはさしたる知識を有していなかった。

そして、被告岡本は、本件紛争が発生するまで、「クロコダイル」商標は海外の著名商標であると認識しており、前記三【被告らの主張】1記載のとおり、マレーシアのクロコダイル社から、原告は日本でのライセンシーであって、もし何かあれば同社が解決するから心配しなくてよい旨伝えられたので、安心して輸入に踏み切ったものである。

2  一般に被告会社程度の会社の取引内容、規模からすれば、経営者としては右程度の認識で取引することは往々にしてみられるところであり、取締役としての対外的責任までを追及されるべきものではないと考えられ、権利関係を詳細に調査した上で取引を開始すべき注意義務の違反という点において重大な過失があったとすることは酷にすぎる。

五 争点5(被告らが損害賠償義務を負う場合、原告に賠償すべき損害の額)

【原告の主張】

1  被告会社の得た利益の額相当額の損害(主位的主張)

(一)  被告会社が販売した被告商品は、少なくとも長袖二万八四九三枚、半袖二〇八五枚の合計三万〇五七八枚である。

(1) 被告会社は、被告商品の長袖を少なくとも三万枚輸入し、そのうち一五〇七枚を返品したので(調査嘱託に対する三井倉庫株式会社の平成七年六月七日付回答書)、少なくとも二万八四九三枚販売したことになる。

被告岡本は、本訴提起前、原告の担当者に対し、被告商品の長袖は二万枚輸入したと述べ、被告らは本件訴訟でもそのように主張し、被告岡本も本人尋問(第一回)においてそのように供述していた。

ところが、原告が輸入価格調査のため被告提出の輸入枚数二万枚のインボイス(乙第一五、第一六号証)に対応する輸入許可書の提出を強く求め、被告がそれに応じて輸入枚数二万枚の船荷証券(乙第二〇、第二一号証)及び輸入許可書(乙第二二、第二三号証)を提出したところ、船積み日と入港日の食違いから別口の輸入のあることが判明し、被告らは、この点を原告から追及されて、ようやく被告商品の長袖の輸入枚数は三万枚であると主張を改めるに至った。

被告商品の輸入枚数は、インボイス、船荷証券、輸入許可書を見直せば容易に分かることであるから、被告らが単なる記憶違いや見落としで二万枚と誤ったとは考えられず、事情を知らない原告や裁判所を騙そうとしていたことが明らかである。

(2) 被告会社は、被告商品の半袖を少なくとも四一〇〇枚輸入し、そのうち二〇一五枚を返品したので(調査嘱託に対する三井倉庫株式会社の平成七年六月七日付回答書)、少なくとも二〇八五枚販売したことになる。

被告岡本は、当初、原告の担当者と会った際、長袖二万枚の輸入のみを認めていたが、半袖も出回っていることを指摘されると、平成四年の春先に半袖も一〇〇〇枚輸入販売したことを認めた。

ところが、被告岡本は、本人尋問(第一回)においては、半袖は平成四年三月にハンドキャリーで五〇〇枚輸入しただけである旨供述した。

その後、調査嘱託に対する三井倉庫株式会社の平成七年六月七日付回答書により、被告会社がニットポロシャツ半袖二〇一五枚を輸出(返品)していたことが判明し、被告らの従前の一〇〇〇枚又は五〇〇枚という主張が虚偽であることが明らかになった。また、乙第一七号証に添付された被告会社作成のインボイス一枚目のDESCRIPTION欄に「Long Sleeves Poloshirts」とあるのは、被告が半袖の輸入枚数を偽るため、内容虚偽のインボイスを後日作成したものであるという疑いが生じた。

そこで、やむを得ず、被告は、本件訴訟の第一回口頭弁論期日から二年以上も経過した平成七年九月一九日になって、半袖三六〇〇枚を仕入れた旨の記載のある雙逸貿易有限公司からの買掛元帳(乙第二六号証)を提出し、同日付被告第六準備書面により、半袖は三六〇〇枚仕入れ、二〇一五枚返品したので、販売数量は一五八五枚であると主張するに至った。

しかし、乙第二六号証の買掛元帳には、半袖三六〇〇枚を平成四年六月三日に仕入れた旨の記載があり、仕入台帳にも記載されており、現金ではなく買掛金になっていることから、右三六〇〇枚は、時期的にみて、被告らが従前主張してきた一〇〇〇枚又は五〇〇枚とは別口である。

よって、被告らの主張を前提としても、被告会社は、半袖を、少なくとも四一〇〇枚ないし四六〇〇枚輸入していたことになる。

(二)  被告商品一枚当たりの仕入単価は、七〇〇円である。

(1) 被告会社の輸入(納税)申告書(乙第二二、第二三号証)には、申告価格として、一万枚で七〇〇万円、一枚当たり七〇〇円と明確に記載されている。

被告らは、右輸入(納税)申告書は、売主SYKT社・買主雙逸貿易有限公司間の取引内容に従って記載されたものであり、一枚当たり七〇〇円というのは雙逸貿易有限公司がSYKT社から買い受けた価格であると強弁した。しかし、仮に台湾の雙逸貿易有限公司が介在したとしても、輸入(納税)申告書は、日本国内に入ってくる商品についての関税のための申告書であり、申告価格として記載すべきは、被告会社が雙逸貿易有限公司から購入した価格であることは当然である。

また、被告らは、返品の際の輸出申告書については、輸入時に納付した関税の一部還付を受けることが難しいことから作成していないと主張していたが、調査嘱託に対する三井倉庫株式会社の平成七年六月七日付回答書により、被告会社は、返品の際も、一枚七〇〇円で輸出許可申請を行っていたことが判明した。

(2) 被告らは、雙逸貿易有限公司が被告商品の長袖の輸入につき開設した荷為替信用状(乙第二七号証の7、Issue of a Documentary Credit)から明らかなように、信用状の開設依頼者(Applicant)である雙逸貿易有限公司(SHUANG YIH TRADING CO.LTD.)と受益者(Beneficiary)であるSYKT社との間における単価は八・六米ドル(三万枚の合計で二五万八〇〇〇米ドル)であるから、雙逸貿易有限公司・被告会社間の取引単価が七〇〇円であるということはありえないと主張する。しかし、被告らは、従来、一枚当たり七〇〇円というのはSYKT社と雙逸貿易有限公司の取引単価であると主張していたのであり、右八・六米ドルという金額は右被告らの主張自体と矛盾している。

(3) 被告らが、被告商品の仕入単価が長袖一四一〇円、半袖二五〇〇円であるとして平成七年九月一九日に提出した被告会社の買掛元帳(乙第二六号証)、被告と雙逸貿易有限公司との間の取引に関する書類(乙第二七号証の1~6)、売掛元帳(乙第二九号証)は、後から容易に作成できる書類であり、内容的にも他の証拠と矛盾している。例えば、乙第二七号証の1(返品商品確認文書)では、被告と雙逸貿易有限公司との間で一枚一四一〇円で返品することが確認され、それが三井倉庫株式会社宛に送られているのに、調査嘱託に対する三井倉庫株式会社の平成七年六月七日付回答書では一枚七〇〇円で返品されたことになっている。

(4) 被告ら提出のインボイス(乙第一五号証)には、「C.&.F.OSAKA」との記載があり、被告商品の輸入取引はC&F価格(Cost and Freightすなわち大阪港の水際までの運賃込み価格)で行われていたものである。仮に、長袖の輸入価格が被告らの主張する一枚一四一〇円であるとすれば、保険料を零としても、一万枚分の輸入価格一四一〇万円とは別に、一六・八パーセントの関税、三パーセントの消費税、乙仲手数料(原告と取引のある乙仲に試算させたところでは、一万枚のシャツで一三万五四〇〇円程度である。甲第二〇号証)が必要となる。

輸入価格が一枚一四一〇円であるとすれば、本来、関税や消費税は一四一〇万円に対して課税されるべきであるが、乙第二二、第二三号証の輸入(納税)申告書によれば、詳細は不明であるものの、被告会社が七〇〇万円で申告していることは明白であるので、右七〇〇万円を前提に、陸揚げ費用・関税込みの価格を計算すると、以下のとおり一五六五万六六八〇円となり、一枚当たり一五六六円になってしまう。

一四一〇万円+[関税](七〇〇万円×〇・一六八)+[消費税](七〇〇万円×一・一六八×〇・〇三)+[手数料]一三万五四〇〇円=一五六五万六六八〇円

被告らの主張する卸売業者に対する長袖の販売価格が一枚一五三〇円であることから考えても、輸入価格が一枚一四一〇円ということはありえない。被告らは、一枚一三八〇円で販売した分もある旨主張するが、それが事実であれば、なおさらのことである。

この点、被告らは、雙逸貿易有限公司の陳玉英作成の売掛明細書(乙第二七号証の3)を提出し、陸揚げ費用、関税を雙逸貿易有限公司が負担していたとするかのようであるが、陳玉英は、陳述書(乙第一二号証)において、被告商品の輸入枚数について、被告らと口裏を合わせて二万枚という虚偽の陳述をしている者であるから、信用することはできない。

(三)  被告商品の販売単価は、長袖、半袖とも一八〇〇円である(甲第一六号証)。

被告らは、長袖について、納品書(乙第一八、第一九号証の各1・2)を根拠に、一枚一五三〇円で販売したと主張するが、納品先とされる株式会社バスチアの所在や被告との関係は不明であり、また、右納品書には本件と無関係であることを示すような「香港分」との記載があるから、信用できない。

また、被告らは、半袖については、一枚二五〇〇円で仕入れて二六〇〇円ないし二一〇〇円で販売したと主張するが、一枚二五〇〇円で仕入れたとの前提自体が誤りである。

(四)  右(一)ないし(三)によれば、販売単価一八〇〇円から仕入単価七〇〇円を差し引き、更に、一枚あたりの関税、消費税、乙仲手数料の合計約一五六円(前記(二)(4)のとおり、一万枚で関税一一七万六〇〇〇円、消費税二四万五二八〇円、乙仲手数料一三万五四〇〇円の合計一五五万六六八〇円)を差し引いても、被告商品を一枚販売するにつき九四四円の利益があることになる。被告商品の販売数量は少なくとも三万〇五七八枚であるので、これを乗じると、被告会社は、被告商品の販売により少なくとも二八八六万五六三二円の利益を得ていることになる。

右利益の額は、商標法三八条一項により、原告の被った損害と推定される。

2  使用料相当額の損害(予備的主張)

被告会社は被告商品を少なくとも三万〇五七八枚販売しており、その市場小売価格は概ね一枚三九八〇円とみるべきところ、本件登録商標は原告の営業努力により著名となっており、その使用料は市場小売価格の一〇%とみるべきであるから、使用料の総計は一二一七万〇〇四四円である。

原告は、商標法三八条二項に基づき、右使用料相当額を損害として請求する。

【被告らの主張】

1  被告会社の得た利益の額相当額の損害(主位的主張)について

(一)  被告会社が購入した被告商品の数量は、長袖計三万枚、半袖計三六〇〇枚であり、販売した被告商品の数量は、これから返品数量(長袖一五〇七枚、半袖二〇一五枚)を差し引いた、長袖二万八四九三枚、半袖一五八五枚である。

(二)  被告商品の仕入先は雙逸貿易有限公司であり(被告商品の入手ルートはマレーシアのクロコダイル社→SYKT社→雙逸貿易有限公司→被告会社)、その仕入単価は、長袖一四一〇円、半袖二五〇〇円である。

(1) 被告商品の仕入単価が右のとおりであることは、被告会社の買掛元帳(乙第二六号証)、返品商品確認文書(乙第二七号証の1)、一九九二年冬季注文商品リスト(同号証の2)、一九九二年冬物商品の売掛明細(同号証の3)、雙逸貿易有限公司の送り状(乙第一五、第一六、第二五号証)等から明らかである。

半袖が長袖より高いのは、綿一〇〇パーセント製品であることによるものである。

したがって、被告会社の販売した被告商品の仕入総額は、右各単価に前記(一)の販売数量を乗じた、長袖四〇一七万五一三〇円、半袖三九六万二五〇〇円、合計四四一三万七六三〇円となる。

(2) 原告は、仮に雙逸貿易有限公司が介在していたとしても、輸入(納税)申告書に記載すべきは被告会社が雙逸貿易有限公司から購入した価格であることは当然であるとして、輸入(納税)申告書や返品の際の輸出申告書に記載された七〇〇円が雙逸貿易有限公司と被告会社との間の取引単価であるかのように主張する。

しかし、雙逸貿易有限公司が被告商品の長袖の輸入につき開設した荷為替信用状(乙第二六号証の7、Issue of a Documentary Credit)から明らかなように、信用状の開設依頼者(Applicant)である雙逸貿易有限公司(SHUANG YIH TRADING CO.LTD.)と受益者(Beneficiary)であるSYKT社との間における単価は八・六米ドル(三万枚の合計で二五万八〇〇〇米ドル)であるから、雙逸貿易有限公司・被告会社間の取引単価が七〇〇円であるということはありえない。もし七〇〇円であるならば、雙逸貿易有限公司には利益がないことになってしまうからである。

(三)  被告会社は、長袖は単価一五三〇円又は一三八〇円で、半袖は単価二六〇〇円ないし二一〇〇円で株式会社バスチアに売却した。

(1) 被告商品の右販売単価は、納品書(乙第一八、第一九号証の各一・二)及び被告会社の売掛元帳(乙第二九号証)から明らかである。

原告は、株式会社バスチアの所在が不明であるとして、同社が存在しないダミー会社であるかのように主張するが、右会社が存在することは、原告の調査先である三誠商事株式会社が長袖を株式会社バスチアから購入していると回答していること、被告会社の貯金口座に株式会社バスチアからの入金がされていることから明らかである。

(2) 原告は、納品書(乙第一八、第一九号証の各1・2)には本件と無関係であることを示すような「香港分」との記載があると主張するが、右記載は、雙逸貿易有限公司から仕入れ、株式会社バスチアに転売する商品であることを示すものである。すなわち、被告会社が株式会社バスチアに転売する商品には、納品時即金支払いという約束のものと、二〇日締めの翌月二〇日払いという約束のものとがあり、雙逸貿易有限公司からの仕入分は前者の決済方法が採られている。そして、被告会社と株式会社バスチアの間で納品書から決済方法が分かるようにするために、雙逸貿易有限公司からの仕入分については、「香港分」と記載されることになっている。被告会社が最初に雙逸貿易有限公司から仕入れ、株式会社バスチアに転売した商品が香港から輸入されたものであったため、両者で話し合って、決済方法が分かるように「香港分」という記載による伝票処理を行ったことから、それ以降も、雙逸貿易有限公司からの仕入分については、同様の記載で特定するようになったものである。納品書記載の商品が香港からの輸入品であるという趣旨ではない。

(3) 原告は、長袖の販売単価一五三〇円(一枚あたりの粗利一二〇円)は低額にすぎる旨主張するようである。しかし、雙逸貿易有限公司からの仕入商品は、仕入段階から買手が決まっているうえ、納品時即金支払いという決済方法が採られているなど、デッドストック化や回収のリスクがなく、確実・早期に一定利益を上げることができるので、右程度の粗利で十分にやっていけるのである。また、原告の調査結果でも、静岡メイクは三誠商事株式会社から単価二五〇〇円で仕入れ、その三誠商事株式会社は株式会社バスチアから単価一八〇〇円で仕入れているのであるから、被告会社の販売単価一五三〇円は極めて自然な数字である。

(四)  被告商品の販売単価を、長袖、半袖それぞれについて、右(三)のうちの最高額として売上高を計算すると、長袖四三五九万四二九〇円、半袖四一二万一〇〇〇円の合計四七七一万五二九〇円となる。これから前記(二)(1)の仕入総額四四一三万七六三〇円を差し引くと、被告会社の利益は三五七万七六六〇円となる。

実際には、被告商品の取引は、半袖は仕入単価が高すぎてほとんどが仕入単価を割る価格で売却する結果となって失敗しており、長袖も仕入れシーズンが終わりに近付くと次第に値引きされマージンがなくなったというのが現状である。

2  使用料相当額の損害(予備的主張)について

原告の主張は争う。

被告商品の市場小売価格は、三四八〇円である。

第四 争点に対する判断

一  争点1(被告標章1、2は本件登録商標と同一又は類似するものであるか)

1  本件登録商標の構成は、筆記体のCrocodileの文字を左側に、左方を向いた鰐の図形を右側に配し、これらの周りを長方形の枠で囲ったものである。右長方形の枠が取引者、需要者の注意を惹くとは考えがたく、本件登録商標の要部は、筆記体のCrocodileの文字と左方を向いた鰐の図形の部分にあることが明らかである。

2  被告標章1の構成は、筆記体のCrocodileの文字を左側に、左方を向いた鰐の図形を右側に、これらの下に「PERSONALLY DESIGNED BY CROCODILE ORIGINAL」の文字を配し、その外に、登録商標であることを示す<R>及びサイズを示す「-M-」を配し、これらの周りを長方形の二重枠で囲ったものである。

原告は、被告標章1中の「PERSONALLY DESIGNED BY CROCODILE ORIGINAL」の文字部分は、その意味や位置からして商標部分ではないと主張するが、被告標章1は、長方形の二重枠で囲まれた全体が一つのまとまりとなっているから、右文字部分も商標を構成しているというべきである。しかし、右文字部分は、単なる説明的・記述的記載であり、その表示態様からしても、これを被告標章1の要部ということはできず、被告標章1の要部は、長方形の二重枠で囲まれた面積の二分の一以上を占める筆記体のCrocodileの文字と左方を向いた鰐の図形の部分にあるといわなければならない。

そうすると、被告標章1は、筆記体のCrocodileの文字を左側に、左方を向いた鰐の図形を右側に配しているという要部において本件登録商標と同一であり、しかも、Crocodileの文字自体の表示態様及び左方を向いた鰐の図形自体も酷似しているから、全体として本件登録商標と類似するものであることは明らかである(類似するというより、むしろ実質的に同一であるとさえいうことができる。)。

3  被告標章2の構成は、筆記体のCrocodileの文字を左側に、左方を向いた鰐の図形を右側に配するというものであり、本件登録商標の要部と同一であり、しかも、Crocodileの文字自体の表示態様及び左方を向いた鰐の図形自体も酷似しているから、全体として本件登録商標と類似するものであることは明らかである(類似するというより、むしろ実質的に同一であるとさえいうことができる。)。

二 争点2(被告会社の行為は、真正商品の並行輸入として実質的違法性を欠くか)

1  商標法の目的は、商品の出所表示機能、品質保証機能を果たすことを本質とする商標を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用(いわゆるグッドウイル)の確保を図るとともに、併せて需要者の利益に資することにある。そうすると、国内における登録商標と同一の商標を付した商品が国外から輸入され、国内で販売される等する場合、当該商品が国外において右商標を適法に付された上で拡布されたものであって、かつ、右国外で商標を適法に付して拡布した者と国内の商標権者とが同一人であるか又は同一人と同視されるような特殊な関係があるときは、両商標が表示し又は保証する商品の出所、品質は同一ということができ、出所表示機能及び品質保証機能を何ら害するものではないから、当該商品を国内において販売等する行為は、いわゆる真正商品の並行輸入として、商標権侵害行為としての違法性を欠き、許容されるものというべきである。但し、国内の商標権者が登録商標の宣伝広告等によって当該商標について独自のグッドウイルを形成し、当該商標と国外で適法に付された商標を表示し又は保証する出所、品質が異なるものであると認められるときは、前記商標権の機能からして、真正商品の並行輸入として許容されるものでないことは当然である。

2(一)  被告らが「クロコダイルグループ」であると主張する各社ないし陳三兄弟の関係について、証拠(各項の末尾掲記のもの)によれば、次の(1)ないし(5)の事実が認められる。

(1) 当時本件商標権の権利者であったシンガポールのリー社が三共生興株式会社を相手方として提起した大阪地方裁判所昭和四四年(ワ)第二三三三号商標権侵害禁止等請求事件(以下「別件訴訟事件」という。)において、シンガポールのリー社(当時の代表者は陳賢進)は、香港のクロコダイル社が「クロコダイル」の商標を有するワイシャツ、ニットシャツ、ネクタイ、スーツ等衣料品の著名メーカーとして日本、欧州、中近東及び東南アジア諸国と手広く取引を行っており、シンガポールのリー社はその販売部門を担当する会社であること、香港のクロコダイル社の社長が陳賢進の次兄の陳俊であり、副社長が同じく長兄の陳少輝であることを主張している。

(2) 平成四年(一九九二年)の時点において、陳賢進はシンガポールのクロコダイル・ガーメンツ社の支配人であり、また、同社の発行済株式総数八八〇万株のうち、シンガポールのクロコダイル・インターナショナル社が三六二万四三四三株を、陳賢進が二〇万株を保有している。

(3) 平成四年(一九九二年)の時点において、陳賢進はシンガポールのクロコダイル・インターナショナル社の取締役であり、また、同社の発行済株式総数二四〇〇株のうち、陳賢進が七八〇株を保有している。シンガポールのクロコダイル・ガーメンツ社とシンガポールのクロコダイル・インターナショナル社の本店所在地は、同じシンガポール 3 UBIアベニュー3クロコダイルハウス#07-00である。

(4) 平成三年(一九九一年)の時点において、マレーシアのクロコダイル社の発行済株式総数一一二万五〇〇〇株のうち、陳賢進が八万三一二四株、シンガポールのクロコダイル・ガーメンツ社が一九万九〇〇〇株、シンガポールのリー社との関連を想起させる「リ セン ミン CO(M)有限責任会社」が四万八一二五株を保有している。

(5) マレーシアのクロコダイル社のセールスマネージャーである林寶泉の名刺には、被告標章2と実質的に同一の構成を有するものと思われる商標が印刷されている。

(二)  外国における「クロコダイル」商標について、シンガポールのリー社が韓国、台湾、インド、ブルネイにおける「クロコダイル」商標の商標権者であることは当事者間に争いがなく、《証拠略》によれば、次の(1)ないし(4)の事実が認められる。

(1) 「クロコダイル」商標は、香港において、昭和二六年(一九五一年)一〇月二六日、指定商品をシャツとして商標登録を受け(当初の商標権者はリー・ワイ・ミン・ファクトリー〔利華民行〕)、昭和三一年(一九五六年)二月二五日には陳三兄弟がその商標権者となり、昭和四六年(一九七一年)六月一二日には香港のクロコダイル社がその商標権者となった。

(被告らは、香港のクロコダイル社は、「クロコダイル」商標につき、英国、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、シンガポール、インドネシア、ビルマ、タイにおいても商標登録を受けた旨主張するが、乙第一号証によれば別件訴訟事件においてシンガポールのリー社がそのような主張をしていることが認められるものの、これを裏付けるに足りる的確な証拠はない)。

(2) マレーシアでは、陳賢進及び陳少輝ことユー・シン・ファクトリーが、マラヤにおいて、被告標章2と実質的に同一と認められる商標及びこれから筆記体のCrocodileの文字を除いた商標について商標登録を受け、サバにおいて、被告標章2と実質的に同一と認められる商標から筆記体のCrocodileの文字を除いた商標及び活字体のCROCODILEという文字商標について商標登録を受けており、シンガポールのクロコダイル・インターナショナル社が、サラワクにおいて、左側に筆記体のLi Seng min、右側に大小二匹の鰐の図形、これらの下に黒地に白抜きでCROCODILES BRANDの文字を配し、全体を長方形の枠で囲んだ商標について商標登録を受けている。

(3) 中国において、香港のクロコダイル社が、Crocoの文字商標、左側にCROCO KIDS、右側に鰐を漫画化した絵を配した商標、Croco-Poloの文字商標について商標登録を受けている。

(4) 韓国において、シンガポールのクロコダイル・インターナショナル社が、被告標章2と実質的に同一と認められる商標について商標登録を受けている。

(三)  右(一)(1)及び(二)(1)認定の事実によれば、陳三兄弟は昭和三一年(一九五六年)二月二五日から昭和四六年(一九七一年)六月一一日まで、香港における「クロコダイル」商標の商標権者であり、同月一二日、香港のクロコダイル社がその商標権者となったところ、別件訴訟事件が提起された昭和四四年当時は、シンガポールのリー社の代表者が陳賢進であり、また、香港のクロコダイル社の社長が陳賢進の次兄の陳俊、副社長が同じく長兄の陳少輝であった(右(一)(1)の事実及び弁論の全趣旨)わけであるから、少なくともこの時点においては、シンガポールのリー社と香港のクロコダイル社は、経営者が互いに兄弟であり、その兄弟で香港における「クロコダイル」商標の商標権を共同保有していたのであって、相互に密接な関係にあったということができる。

また、右(一)の(2)ないし(4)の事実によれば、平成四年(一九九二年)当時、シンガポールのクロコダイル・ガーメンツ社、シンガポールのクロコダイル・インターナショナル社、マレーシアのクロコダイル社は相互に密接な関係にあったことが認められ、現在においても同様であるものと推認される。

しかしながら、香港のクロコダイル社とシンガポールのリー社とが、昭和四四年当時から二〇年以上を経過した平成四年(一九九二年)以降も相互に密接な関係にあるとの事実、あるいは右両社がシンガポールのクロコダイル・ガーメンツ社、シンガポールのクロコダイル・インターナショナル社、マレーシアのクロコダイル社と密接な関係にあるとの事実を認めるに足りる証拠はない。前認定のとおり、別件訴訟事件当時(昭和四四年)シンガポールのリー社の代表者であった陳賢進(現在も代表者であるかどうかは明らかでない。)が、平成四年又は三年当時シンガポールのクロコダイル・ガーメンツ社及びシンガポールのクロコダイル・インターナショナル社の役員・株主であり、マレーシアのクロコダイル社の株主であること、シンガポールのリー社との関連を想起させる「リ セン ミン CO(M)有限責任会社」がマレーシアのクロコダイル社の株式四万八一二五株を保有していること、マレーシアでは、陳賢進及び陳少輝ことユー・シン・ファクトリーが、マラヤにおいて、被告標章2と実質的に同一と認められる商標及びこれから筆記体のCrocodileの文字を除いた商標について商標登録を受け、サバにおいて、被告標章2と実質的に同一と認められる商標から筆記体のCrocodileの文字を除いた商標及び活字体のCROCODILEの文字商標について商標登録を受けており、シンガポールのクロコダイル・インターナショナル社が、サラワクにおいて、左側に筆記体のLi Seng min、右側に大小二匹の鰐の図形、これらの下に黒地に白抜きでCROCODILES BRANDの文字を配し、全体を長方形の枠で囲んだ商標について商標登録を受けていること、また、マレーシアのクロコダイル社のセールスマネージャーである林寶泉の名刺に、被告標章2と実質的に同一の構成を有するものと思われる商標が印刷されており、同社の株主の陳賢進が同国における被告標章2と実質的に同一と認められる商標の商標権者(陳少輝と共同)であるので、同社は右商標の使用について許諾を得ていると考えられることをもってしては、未だ前記事実を推認するに足りない。かえって、弁論の全趣旨によれば、現在、香港のクロコダイル社の経営権は陳俊の手を離れ、陳三兄弟とは関係のないライサン社に移っていることが認められる。

また、別件訴訟事件において、シンガポールのリー社が、同社はメーカーである香港のクロコダイル社の販売部門を担当する会社である旨主張していたことは前記(一)(1)認定のとおりであるが、少なくとも平成四年以降において右両社がそのような関係にあることを認めるに足りる証拠はない。

したがって、少なくとも、平成四年(一九九二年)以降において、香港のクロコダイル社及びシンガポールのリー社がマレーシアのクロコダイル社等とともに被告ら主張のクロコダイルグループというべきグループを形成しているとの事実を認めることはできない。

3  また、本件登録商標を含む「クロコダイル」商標は、陳三兄弟を中心とするクロコダイルグループの努力によって、昭和四六年(一九七一年)には世界的に著名な商標となり、少なくともアジア、中近東各国では確固不動の地位を築き上げていたため、日本国内においても、取引業者や需要者の間では、古くからある海外の著名ブランドとして認識され、それによって識別される商品の出所もクロコダイルグループであると考えられており、国内販売代理店にすぎなかった原告がその生産源、販売源であるとは考えられていなかったとの被告ら主張の事実を認めるに足りる証拠はない。

かえって、《証拠略》によれば、原告は、昭和四四年一二月に本件商標権の当時の保有者であったシンガポールのリー社から本件登録商標の独占的使用の許諾を受け、次いで昭和五〇年一二月二日付契約に基づき昭和五二年二月一四日に専用使用権の設定登録を受け、さらに昭和五四年七月一二日にシンガポールのリー社から本件商標権を譲り受けて昭和五五年四月二一日にその移転登録を受けたものであるところ、原告が右独占的使用の許諾を受けた昭和四四年一二月当時シンガポールのリー社はわが国において本件登録商標を付した商品を全く展開していなかったため、原告が本件登録商標を付した衣類(スポーツカジュアルウエア)を製造して専門店、百貨店等に取引を依頼しても当初は受け入れられなかったこと、原告は、昭和四六、七年のワンポイントブームに対応して積極的に本件登録商標を使用した広告宣伝活動を開始し、昭和五二年以降は、本件登録商標とともに原告の商号を明記して宣伝活動を展開し(その反面、シンガポールのリー社の名称は表示していない。)、イメージキャラクターとして阪神タイガースの選手や読売ジャイアンツの元選手を起用する等し、昭和五七年から平成三年までの間に、テレビ・雑誌・新聞・看板その他による広告宣伝費として毎年一億円~二億二四〇〇万円を投じていること、原告は、経営面においても資本面においてもシンガポールのリー社とは全く関係なく、本件登録商標を付した商品の開発から、デザイン、原材料、縫製メーカー、販売方法、広告宣伝方法まですべて独自に決定し、素材メーカーに対しても注文を付けていることが認められ、したがって、被告会社が被告商品を輸入して販売した平成四年当時には既に、原告は、シンガポールのリー社、香港のクロコダイル社等に依拠することなく、本件登録商標について独自のグッドウイルを形成していたものと認められるし、被告商品は、原告が本件登録商標を付して販売している商品と品質、形態等において差異がないと認めるに足りる証拠がないというのにとどまらず、差異があるものと推認される。

原告が香港のクロコダイル社と香港に合弁会社を設立した事実は当事者間に争いがなく、被告らはこれを根拠に原告は本件商標権の移転登録後も香港のクロコダイル社と密接な関係を保っている旨主張し、原告は本件登録商標に関して独自のグッドウイルを形成していないとするかのようであるが、《証拠略》によれば、右合弁会社(ペリフェリック・カンパニー・リミテッド。平成元年八月に設立されたが、平成三年、原告が同社の株式を他に譲渡したことにより合弁解消。)は中国の縫製会社に間接的に出資する目的で設立されたものであり、右中国の縫製会社はジーンズの製造を行ったものの、「クロコダイル」商標とは全く関係がないことが認められる。

4  以上によれば、少なくとも、平成四年(一九九二年)以降において、香港のクロコダイル社及びシンガポールのリー社がマレーシアのクロコダイル社等とともに被告ら主張のクロコダイルグループというべきグループを形成しているとの事実は認められないのみならず、そもそも、原告が被告ら主張のクロコダイルグループの一員であるとの事実を認めるに足りる証拠はないから、仮に被告商品がマレーシアのクロコダイル社によって国外において適法に「クロコダイル」商標を付して拡布されたものであったとしても、シンガポールのリー社から原告が本件商標権を譲り受けたからといってマレーシアのクロコダイル社が原告と同一人と同視されるような特殊な関係があるといえないことは明らかであり、また、被告会社が被告商品を輸入して販売した平成四年当時には既に、原告は、シンガポールのリー社や香港のクロコダイル社等に依拠することなく、本件登録商標について独自のグッドウイルを形成していたものであり、被告商品は、原告が本件登録商標を付して販売している商品と品質、形態等において差異があるから、被告会社が被告商品を日本国内に輸入して販売した行為は、本件登録商標の出所表示機能、品質保証機能を害するものであり、前記1に説示したところにより、真正商品の並行輸入として違法性を阻却されるものでないことは明らかである。以上に反する被告らの主張は、採用の限りでない。

三 争点3(被告会社は現在被告商品を販売し、又は販売のために展示しているか。将来同様の行為をするおそれがあるか。被告会社は現在被告商品を所有、占有しているか)

1  被告会社が被告商品を輸入し、販売した経過について、《証拠略》によれば、次の(一)ないし(七)の事実が認められる。

(一)  被告岡本は、昭和四五年大学卒業後、スポーツ用品の卸メーカーでの七年間の勤務などを経て、平成三年一二月一〇日、スポーツ用衣類の販売、製造、輸出入等を目的とする被告会社を設立した(資本金一〇〇〇万円)。被告会社の従業員は数名程度である。

(二)  被告岡本は、被告会社の設立準備中から業務を開始しており、台湾の雙逸貿易有限公司を通じ、海外商品のブランドの並行輸入をすることにし、平成三年八月頃、まず、フレッドペリーというブランドの商品について香港から並行輸入を行った。

被告岡本は、同年九、一〇月頃、雙逸貿易有限公司の伍陳玉英から、マレーシアからクロコダイルブランドの商品を並行輸入できると連絡され、マレーシアのクロコダイル社をメーカー、マレーシアで主としてスポーツシューズの卸業を営んでいたSYKT社(SYKT.SUKAN MAJU SDN.BHD.)をマレーシアにおける窓口、雙逸貿易有限公司を直接の窓口として、被告会社がクロコダイルブランドの商品を輸入販売するという商談が進められた(すなわち、商品の流れは、マレーシアのクロコダイル社→SYKT社→雙逸貿易有限公司→被告ということになる。)。

(三)  被告岡本は、平成三年一〇、一一月頃から四回ほど、日本での主な販売先になる予定の株式会社バスチアの担当者、伍陳玉英、SYKT社の担当者のシャーらと、マレーシアのクロコダイル社で商談を重ねた結果、平成四年三月に被告商品について商談がまとまった(被告会社による被告商品の輸入単価については、後記五1において認定する。)。

(四)  右商談の過程で、被告岡本は、並行輸入を図る以上当然のことながら、日本で「クロコダイル」商標を付した衣類を販売している者がいることを知っており、それが原告であることも知っていた(但し、被告岡本は、原告が本件商標権を有していることは知らず、調査をしたわけでもない。)。

そこで、被告岡本が伍陳玉英を通じて、マレーシアのクロコダイル社の担当者林寶泉に、並行輸入について問題はないか尋ねたところ、原告からクレームがあればマレーシアのクロコダイル社において責任を持って処理するとの返答があった。

また、林寶泉は、香港のクロコダイル社がマレーシアのクロコダイル社の本社であり、マレーシアのクロコダイル社は香港のクロコダイル社からマレーシアにおける製造販売権を取得している旨述べたが、特に原告と香港のクロコダイル社あるいはマレーシアのクロコダイル社とが関係があると述べたわけではない。

(五)  被告商品の長袖については、被告会社は、船便で、三井倉庫港運株式会社を乙仲業者として、平成四年九月から一〇月にかけて、一万枚ずつ三回に分けて輸入し、株式会社バスチアを中心に同年一一月頃までこれを販売した。販売単価は、当初一五三〇円であったが、一一月中旬頃から、在庫をさばくために一三八〇円とした。

また、被告商品の半袖については、被告会社は、同年六月、三六〇〇枚を航空便で輸入し、株式会社バスチアを中心にこれを販売した(半袖の輸入枚数の認定については、後記五2(一)の説示参照)。販売単価は、当初二六〇〇円であったが、あまり売れず、二一〇〇円で見切り販売することになった(被告商品の販売単価の認定については、後記五2(二)の説示のとおり)。

(六)  原告のマーケティング部の部長であった荒木隆美は、平成四年九月、ニチイ花園店で被告商品が販売されていることを知り、調査の結果、これを輸入したのは被告会社であることを突き止めた。

そこで、原告が被告会社の販売先であるミスターマックスに警告書を送付するとともに、被告会社に説明を求めたところ、同年一〇月六日、被告岡本が原告を訪れた。

その際、被告岡本は、マレーシアのクロコダイル社の製造にかかる被告商品の長袖を、SYKT社は、雙逸貿易有限公司を通じて二万枚仕入れて販売し、現在の在庫数は五〇〇〇枚である旨説明し、マレーシアのクロコダイル社からSYKT社に対する送り状を示したが、その送り状には同年八月二四日付で一万枚、同年九月三日付で一万枚との記載があった。実際には、その時点で、その外に一万枚が船便で日本に輸送されている途中であったが、被告岡本はその点は隠していた。また、被告岡本は、被告商品の半袖については、一〇〇〇枚だけ輸入して販売したと虚偽の事実を述べた。

被告岡本は、前記マレーシアのクロコダイル社の林寶泉に説明を求めるため面会を求めたが、同人は逃げ回って被告岡本と会おうとはしなかった。

(七)  被告会社は、売却した残りの長袖一五〇七枚、半袖二〇一五枚を返品することとし、平成五年八月に三井倉庫株式会社を通じて手続をとり、これらは同年九月三日船積みされ、SYKT社に返品された。

2  右1認定の事実によれば、被告会社は、輸入した被告商品(長袖三万枚、半袖三六〇〇枚)については、売却した残りの長袖一五〇七枚、半袖二〇一五枚を返品することとし、平成五年八月に三井倉庫株式会社を通じて手続をとり、これらは同年九月三日に船積みされ、SYKT社に返品されたのであって、現在、被告会社が被告商品を所有、占有していることを認めるに足りる証拠はない。したがって、被告会社に対し被告商品の廃棄を求める原告の請求は、理由がない。

しかしながら、被告らは、本件訴訟において、被告商品の輸入販売は真正商品の並行輸入として実質的違法性を欠くものであると主張して積極的に争っていること、右1(六)認定のとおり、被告岡本は、原告から説明を求められて平成四年一〇月六日に原告を訪れた際、被告商品の長袖の輸入販売枚数は二万枚である旨説明し、実際にはその時点でその外に一万枚が船便で日本に輸送されている途中であったことを隠し、半袖の輸入販売枚数についても一〇〇〇枚である旨虚偽の事実を述べたこと、同(五)認定のとおり、被告会社は、その後も、一一月頃まで被告商品を販売して在庫をさばいたこと、被告岡本は、平成六年一〇月四日の第八回口頭弁論期日における本人尋問(第一回)において、被告商品の長袖については二万枚しか輸入していないとか、半袖はハンドキャリーで五〇〇枚輸入したのみである等虚偽の事実を述べ、更に、クロコダイルブランドの商品の海外からの輸入については「今のところ」する気はないと曖昧な供述をしているのみであることに照らすと、将来被告会社は再び被告商品を販売し、又は販売のために展示するおそれがあるものと認められる。

被告らは、被告会社は、原告から警告を受けた後、回収可能な被告商品はできる限り回収し、すべて輸入元に返品したと主張するが、被告会社は、原告から説明を求められて被告岡本が原告を訪ねた平成四年一〇月六日の後も被告商品を販売していたことは前記のとおりである。

被告らは、被告会社の輸入販売行為は、原告が本件登録商標の商標権者であることを了知した上でなした意図的なものではなく、被告会社は、今後も無用なトラブルを避ける意味からも一切被告商品を輸入等する意思はないとも主張するが、被告岡本は、右1(四)認定のとおり、マレーシアのクロコダイル社等との商談の過程で、日本で「クロコダイル」商標を付した衣類を販売している者がいることを知っており、それが原告であることも知っていながら、本件商標権について調査をしなかったのであるから、前認定は動かない。

したがって、被告会社に対し被告商品の販売又は販売のための展示の差止めを求める原告の請求は、理由がある。

四 争点4(被告岡本は被告会社とともに不法行為責任を負うか。被告岡本には代表取締役としての職務を行うについて悪意、重過失があったか)

前記三1認定の事実によれば、被告会社は資本金一〇〇〇万円、従業員数名程度の小規模企業であって、被告岡本は、代表取締役として被告会社の業務執行全般を統括していたことはもちろん、被告商品の輸入、販売による本件商標権侵害行為について自ら直接相手方と商談を進め契約を締結したことが明らかであるから、故意又は過失がある限り、商法二六六条の三による取締役の第三者責任を持ち出すまでもなく、民法七〇九条の不法行為に基づき損害賠償責任を負うものといわなければならない。

そして、商標法三九条、特許法一〇三条によれば、商標権を侵害した者はその侵害の行為について過失があったものと推定されるから、本件において被告岡本が右不法行為責任を免れるには、被告商品の輸入、販売が真正商品の並行輸入として違法性を阻却されると信じるに足りる相当の理由があることを主張立証する必要がある。

右にいう相当の理由があるというためには、前記二1に説示したところに徴し、少なくとも、マレーシアのクロコダイル社と本件商標権者である原告とが同一人と同視されるような特殊な関係があると認識し、そのことにつき相当の理由のあることを要するというべきであるが、前記三1(四)認定の事実によれば、被告岡本は、マレーシアのクロコダイル社等との商談の過程で、日本で「クロコダイル」商標を付した衣類を販売している者がいることを知っており、それが原告であることも知っていたものの、原告が本件商標権を有していることを知らず、本件商標権について調査したわけでもなく(商標権については、商標公報によって公示されているから、特段の事情のない限り、これを知らないことについて相当の理由があるということはできない。)、伍陳玉英を通じて、マレーシアのクロコダイル社の担当者林寶泉に、並行輸入について問題はないかと尋ねたところ、伍陳玉英を通じて、原告からクレームがあればマレーシアのクロコダイル社において責任をもって処理するとの返答があり、更に、林寶泉は、香港のクロコダイル社がマレーシアのクロコダイル社の本社であり、マレーシアのクロコダイル社は香港のクロコダイル社からマレーシアにおける製造販売権を取得している旨述べたが、特に原告と香港のクロコダイル社あるいはマレーシアのクロコダイル社とが関係があると述べたわけではない、というのであるから、到底、被告商品の輸入、販売が真正商品の並行輸入として違法性が阻却されると信じるに足りる相当の理由があるということはできない。

したがって、被告岡本は、被告商品の輸入、販売による本件商標権侵害行為によって原告の被った損害を被告会社と連帯して賠償すべき責任を負うものといわなければならない。

五 争点5(被告らが損害賠償義務を負う場合、原告に賠償すべき損害の額)

1  被告会社が被告商品を輸入した価格については、まず、長袖は、被告会社の輸入(納税)申告書(乙第二二、第二三号証)に、申告価格として一万枚で七〇〇万円、一枚当たり七〇〇円と明確に記載されていること、平成七年二月二三日付調査嘱託に対する三井倉庫株式会社関西支社の同年三月一四日受付の回答書及び同年六月二日付調査嘱託に対する同社の同月七日付回答書によれば、被告会社が返品した際も、一五〇七枚で一〇五万四九〇〇円、一枚当たり七〇〇円で輸出許可申請をしたことが認められるから、被告会社は一枚七〇〇円で輸入したものと認められる。

半袖は、右三井倉庫株式会社関西支社の平成七年三月一四日受付の回答書添付の輸出許可通知書によれば、被告会社が返品した際、二〇一五枚につき二一六万五〇七七円、一枚当たり約一〇七四・四円の申告価格で輸出申告をしたことが認められ、格別の事由のない限り、返品は購入した価格と同一の価格で行うのが通常であるから、被告会社は一枚当たり約一〇七四・四円で輸入したものと認められる。

被告らは、被告商品の仕入単価が長袖一四一〇円、半袖二五〇〇円であることは、被告会社の買掛元帳(乙第二六号証)、返品商品確認文書(乙第二七号証の1)、一九九二年冬季注文商品リスト(同号証の2)、一九九二年冬物商品の売掛明細(同号証の3)、雙逸貿易有限公司の送り状(乙第一五、第一六、第二五号証)等から明らかである旨主張する。しかし、これらの書証は、いずれも被告会社又は雙逸貿易有限公司の作成にかかるものであるところ、被告岡本は、乙第一一号証(当裁判所宛の平成六年七月六日付陳述書)において、輸入した被告商品は平成四年八月二四日と九月三日の各一万枚の合計二万枚であり、そのうち三五二二枚を返品したので、結局総販売数量は一万六四七八枚である旨記載し、もって、長袖の輸入枚数が三万枚であること及びその外に半袖を三六〇〇枚輸入したことを秘匿し、返品枚数だけは長袖(一五〇七枚)と半袖(二〇一五枚)を合わせた枚数を記載しており、また、平成六年一〇月四日の第八回口頭弁論期日における本人尋問(第一回)において、長袖の輸入枚数は二万枚であり、半袖は五〇〇枚ぐらいを長袖と同じぐらいの単価で購入してハンドキャリーで持ち帰り、サンプルとして長袖と同じくらいの単価で五〇枚単位で各得意先に販売した旨明らかに虚偽の供述をしたものであり、雙逸貿易有限公司の担当者である伍陳玉英も、乙第一二号証(当裁判所宛の平成六年七月九日付陳述書)において、被告岡本の右陳述書(乙第一一号証)と全く同一の記載をしており、被告らと意を通じて虚偽の記載をしたものであるから、前記各書証の記載中、前記輸入申告書及び輸出申告書の記載に反する部分は、到底信用することができない。

一方、原告は、被告商品の長袖だけでなく、半袖の仕入単価も七〇〇円である旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

2  したがって、右1及び前記三1認定の事実によれば、被告会社は、返品した分を除き、被告商品の長袖二万八四九三枚を一枚当たり七〇〇円で仕入れて一五三〇円(後には一三八〇円)で販売し、半袖一五八五枚を一枚当たり一〇七四・四円で仕入れて二六〇〇円(後に二一〇〇円)で販売したことになる。

(一)  原告は、被告商品の半袖の輸入枚数について、乙第二六号証の買掛元帳には、半袖三六〇〇枚を平成四年六月三日に仕入れた旨の記載があり、仕入台帳にも記載されており、現金ではなく買掛金になっていることから、右三六〇〇枚は、時期的にみて、被告岡本が原告の担当者と会った際に認めていた「平成四年春先」の一〇〇〇枚又は本人尋問(第一回)において供述した「平成四年三月)の五〇〇枚とは別口であるから、被告会社は、半袖を少なくとも四一〇〇枚ないし四六〇〇枚輸入していたことになる旨主張するが、被告岡本は右三六〇〇枚について、これを一〇〇〇枚又は五〇〇枚と言い繕っていたと認めるのが相当であり、前認定の三六〇〇枚以外に被告商品の半袖を輸入したと認めるに足りる証拠はない。

(二)  原告は、被告商品の販売単価は、長袖、半袖とも一八〇〇円であると主張し、甲第一六号証を援用するが、右甲第一六号証のみによっては直ちにこれを認めることはできず、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

原告は、納品書(乙第一八、第一九号証の各1・2)における一枚一五三〇円との記載について、納品先とされる株式会社バスチアの所在や被告との関係は不明であり、また、右納品書には本件と無関係であることを示すような「香港分」との記載があるから信用できない旨主張する。しかし、株式会社バスチアがダミー会社であるかのように主張する点は、原告の調査先である三誠商事株式会社が被告商品を株式会社バスチアから購入した旨回答していること、被告会社の貯金口座に株式会社バスチアから入金がされていることに照らし、採用することができない。また、納品書における「香港分」との記載については、《証拠略》によれば、被告会社が株式会社バスチアに転売する商品には、納品時即金支払いという約束のものと、二〇日締めの翌月二〇日払いという約束のものとがあり、雙逸貿易有限公司からの仕入分は、前者の決済方法が採られているところ、被告会社と株式会社バスチアの間で納品書から決済方法が分かるようにするために、雙逸貿易有限公司からの仕入分については「香港分」と記載されることになっていることによるものである(これは、被告会社の設立準備中に初めて並行輸入をしたのがフレッドペリーという香港からの輸入品だったことに由来する。)ことが認められるから、右各納品書は被告商品分であることが明らかである。

3  そこで、被告商品の販売単価(長袖については、値引をした商品の数量を特定するに足る資料がないので、値引を考慮せず、一五三〇円として計算する。半袖については、原告の主張に従い一八〇〇円として計算する。)に販売枚数(長袖二万八四九三枚、半袖一五八五枚)を乗ずると、売上高は、長袖四三五九万四二九〇円、半袖二八五万三〇〇〇円の合計四六四四万七二九〇円となる。そして、長袖、半袖それぞれの仕入単価(長袖七〇〇円、半袖一〇七五円)に右販売枚数を乗ずると、販売された分の被告商品の仕入総額は、長袖一九九四万五一〇〇円、半袖一七〇万三八七五円の合計二一六四万八九七五円となる。前記売上高から仕入総額を差し引くと、粗利益は、二四七九万八三一五円(長袖二三六四万九一九〇円、半袖一一四万九一二五円)となる。

そして、被告らが具体的な経費等を主張立証していない本件においては、右粗利益をもって、商標法三八条一項によって本件商標権者たる原告が被告らの本件商標権侵害行為により被った損害の額と推定される被告会社の利益の額と認める外はない。

4  したがって、被告らに対し二四〇〇万円の支払を求める原告の請求は、理由があるというべきである。

第五 結論

よって、原告の請求のうち、被告会社に対する被告商品の販売又は販売のための展示の差止めを求める請求、及び被告らに対する損害賠償請求を認容し、被告会社に対する被告商品の廃棄請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水野 武 裁判官 田中俊次)

裁判官 本吉弘行は転補のため署名押印することができない。

(裁判長裁判官 水野 武)

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